ミュージカル「フィーダシュタント」感想

 

 

 ミュージカル「フィーダシュタント」、本当に素晴らしい作品でした。円盤になりますように。

 

 歌が上手い!演技が上手い!脚本が良い!演出が良い!全員ビジュアルが良い!衣装最高!

 ※以下時代背景等あらゆる予備知識ほぼ無しで観た人間の感想です。ネタバレしかない。

 ※曲のタイトル分かってません。

 ※あくまで個人の感想です。書きたい事が多すぎて長くなってしまった。

 

 

 マグナス・ヴォルカーくん17歳。キャラクター紹介に「単純かつまっすぐで負けず嫌いな性格」とあるが開始10分もしないうちに確かにと思わせられる。ついでに向こう見ずというか直情的というか、思った事をすぐ口に出すし、感情が顔に出る分かりやすい人物である。

 アイドスポーツ学校に僕たち志願しよう云々からの渋るアベルに「僕が勝ったら一緒に志願するんだぞ」とフェンシング対決を持ち掛けるマグナスの台詞回しに微妙な引っ掛かりを覚えたが、ずるい手を使って勝ったマグナスに対してアベルは「分かった!」と笑って許してるしどこか楽しそうで、その後笑いながらはけていく二人を見て、これが通常運転なんだな、と納得した。

 

 入学試験の身体検査の内容で、ナチスドイツの事に詳しくなくても「この学校ヤベー」と解るのがとても親切。

 家族への手紙のくだり、遅れて現れるマグナスは誰宛に書いてるのかが判らない。後の展開から父親ではないだろうと判るけど、マグナスの家族構成は不明のまま。母親は存命なのだろうか。

 

 クレアがマグナスに目をつけたであろうきっかけは遺伝学の授業ではないか思う。

 マグナスはこんな授業よりフェンシングの練習がしたいと文句を言おうとしたけど、「パーフェクトなアーリア人の頭の形だ」とクレアに真偽はともかく褒められた事により、先程言おうとした文句をあっさり撤回しているので、恐らく御しやすい人間だと認識されたに違いない。

 逆に、最後まで意見に反対し続けたアベルと、反論が許されないような雰囲気の中アベルに同意したジャスパーは扱い難いと思われただろう。

 親友のアベルが詰められててもマグナスは何も言えなかったけど、あそこで自分の意見を貫いたジャスパーはとても強い。後々、マグナスには暴力的な父親がいると発覚するので、トラウマから大人の男性に高圧的に来られると恐怖を覚えて動けなかったのだろうと察せられるけど、観劇時このシーンは「マグナス!アベルがピンチなんだから助太刀せんかい!!」と思っていました。事情も知らずにごめん。

 

 フレドリッヒは従順だけど内面があまり読めないので、クレアは判りやすくて扱いやすそうなマグナスに鞍替えしたんだろうな。

 マグナス、クズの父親の所為で家では存在を消していた自分をクレア団長は見てくれている、という事が個人指導という形で現れたものだから余計にクレアへ傾倒していったんだろうなぁ。

 「僕の価値と僕の存在証明しよう」と冒頭で歌っていたマグナスにとって他人──しかも憧れの選手──が自分を認めてくれている・見てくれているという事はどれだけ嬉しかったことだろう。家族への手紙でも「必ず認められて帰ってきます」と書いているし。プライドの高さと尊大さが垣間見える言動から、特別扱いに自尊心もくすぐられただろう。

 尊大さと言えば、水晶の夜の後、地下室のハーゲンを3人が訪ねた時、マグナスがハーゲンに「助けてやろうとしてるんだ」と言う台詞で「は?」となった。

 助けて「やろう」????

 何でそんなに上から目線??

 思えば冒頭でもアベルに「僕が勝ったら一緒に志願するんだぞ」って一方的に言っていた。微妙な引っ掛かりを覚えたのはこういう訳だった。

 恐らく本人は無意識なんだろうけど、人を下に見る時がある。クレアはそこも見抜いていたのだろうか。

 フェンシングで強くなる=権力が手に入る=全てを守れると教えたクレア団長マジでこの野郎。

 守る強さを求めてフェンシングを始めてメダリストになって学校の団長(権力者)にもなった当人の経験から来てるから本人は間違っているとは思ってないんだろうけど。

 アベルの事がなかったら、マグナスは将来クレアのようになっていたかもしれない。

 

 マグナスがチームメイトに順位をつけるシーン、クレアとチームメイトに対しての妥協点を探った結果が「ハーゲンを最下位に選ぶけれど、怪我という事情を考えてもう一度チャンスを与える」というものだったが、その後「別の処罰を与えろ」となるとは思ってなかったから大いに動揺しただろうな。しかも処罰の内容がエグいんだよクレアこの野郎。

 しかし、とっさの出来事とはいえあれだけの内容をすらすらとハーゲンに言ったという事は、心の何処かでほんの少しでもそう思っていたのではないかと疑ってしまう。それか昔自分の父親が言っていた若しくは言われた事を焼き直したか……後者だとしたらしんどい。

 従うしかなかったマグナスの行動に対してハーゲンは「いいんだ」と言った。あそこはああするしかなかったんだとアベルも分かってくれていると思ったのに予想外に怒られるから、頭に血が上って思ったことをそのまま口に出したら余計にアベルを怒らせたという感じ。

 決別ソングも「君なんて要らない」の後マグナスは激昂して怒りに任せて色々言ったりやったりしたけど、後々冷静になって大後悔したんだろうな。話しかけようとしたけどアベルが無言で立ち去ってしまったり、逆にマグナスが背を向けたりして互いに素直に謝れない様子は普通の友人同士の喧嘩なのに、最終的には仲違いしたまま死別になってしまうの悲しすぎる。

 

 アベルは昔自分が救われた時のマグナスの「たとえ死んでも戦って、主張してこそ何かが変わるんだ」という言葉を大切にしていたから、クレアに、権力に迎合するようなマグナスが信じられなかった。マグナスの「黙ってやりすごしちゃダメか」に「どうしたら黙っていられるんだよ!」とアベルは怒る。

 アベルは自分もユダヤ人であるという事実と、過去の後悔からどうしても見過ごせないのだけど、マグナスはそれを解っていない。当事者ではないから。アベルもあの状況でフレドリッヒに暗号で告白したくらいだから、マグナスにわざわざ話していないだろうし、仕方がないといえばそうなのだが。

 

 アベルと自分を守るために権力を欲したマグナス、「後で助けてと泣きついてくるなよ!」と言ったけど、アベルはマグナスに助けてとは言わなさそう。助けを求めたマグナスに累が及ぶことを恐れて、自分で全部背負い込むタイプ。ジャスパーの言う「君はよく一人でカッコつけるよな」なんだよ。

 思うに、マグナスとアベルはそれぞれの「守る」に微妙な違いがあって、マグナスは背中に誰かを庇って戦う、その誰かはマグナスにとっては庇護の対象で、言葉は悪いが自分の方が上だと思っている「守る」、アベルは自分が盾になって全てをその身で受けようとする自己犠牲の「守る」で、二人は対等なようでいて、その実対等ではなかった。

 もし、二人がお互いにお互いの背中を預けるような、二人で並び立つ「守る」だったら、結末は変わっていたかもしれない。

 悪いのは世間と大人、主にクレア団長だけどな!!

 

 

 以下個人感想。箇条書き気味。RIKUさんと浦川翔平さん以外は初めましてでした。

 

 マグナス・ヴォルカー  RIKUさん (THE RAMPAGE)

 権力にのまれていく様子が顔つきと声・口調ではっきりと判り、終盤は小さい子どもにもなる。凄い。

 冒頭の学校に志願のくだりのアベルへの「そんなことない大丈夫だよ~!」の声音と言い方がめちゃくちゃ子どもの駄々っ子という感じが出ている。公演の日程前半に観たときは確か普通の言い方をしていた。公演後半では「毎日がヘトヘトで~」のところの歌唱もあくびしながら歌ってる感じになってて、前半と後半で色々変化している部分があってその差も楽しめた。

 

 マグナス、アベルに比重が偏り過ぎてハーゲン、ジャスパーとはそこまで親しくなさそうに感じた。友達(アベル)の友達って付き合いしかしてなさそう。アベルとジャスパーが監禁されてた地下室から出てきた時、アベルにしか声掛けてないんだよな……

 

 騎士の誓いの時、アベルがハンカチを結んで誓った後のマグナス、公演前半ではハンカチが結ばれた木剣見て「いーねーかっくいい!」だったのが後半ではアベルを見て「言ったな?約束だぞ」になってたの泣くんだが。

 

 己の存在証明であるフェンシングを過去に辞めようとしたことがあったのは何故なのか知りたい。

 

 カテコの終わり、糸川さんと一緒にはけていくところが毎公演仲良しで見ているこちらも笑顔になった。

 

 花に譬えるならバラ(赤)(つぼみの状態)

 

 

 アベル・ルター  糸川耀士郎さん

 顔がめちゃくちゃ小さくて米粒かと思った。細身だがカテコでRIKUさんをお姫様抱っこした回が存在する。見たかった。

 

 アベルに関しては公演前から一抹の不安を抱えていた。

アベルのハンカチ」というグッズの存在である。

 なにそれ……めっちゃ形見っぽいじゃん……アベル死ぬんか……?

 ドラマのキャストで犯人を当てるようなアレ状態である。

 登場時マグナスが既に剣にハンカチをつけていたので、話の途中でアベルが亡くなり「これがアイツの形見だ」と差し出される時がハンカチの初登場シーンだと妄想していた自分は、死亡フラグじゃなかった!と喜んだ。それがぬか喜びだと知らずに。

 遺伝学の授業で反抗するアベルを見て『駄目だ!!これは早死にするタイプだ!!』と死亡フラグの華麗なる復活に頭を抱えた。

 

 先でも言ったけど、現在のアベルの根幹にあるものは、幼い頃のマグナスの「たとえ死んでも戦って主張してこそ何かが変わるんだ」という言葉と、フレドリッヒに語った、知らないふりをして黙って何も行動しなかったという後悔。それらがアベルをフィーダシュタント活動へと駆り立てたのであろうことは想像に難くないのだけど、全ての責任を一人で背負いがち・自己犠牲精神が強いのがアベルの悪いところだよ……ジャスパーが「君の所為じゃなくて、僕も僕の考えを言ったまでだ。自分だけカッコつけるなよ!」「君はよく自分だけカッコつけるよな」って2回も言ってるじゃないか……君はそう言われて、どう思ったのだろうか。

 ジャスパーといえば、「ユダヤ人が劣っているという話、どう思う?」という質問に、即座に否定で返したジャスパーの存在はアベルにとって嬉しかっただろうな。

 

 地下室で鍵見つけて扉開けに行く時、怖がってただ見ているジャスパーにわざわざ鍵持たせて行かせるあたりアベルって結構いい性格をしているのでは。

 

 カテコの時、隣に立ってる翔平さんとよく顔見合わせたりじゃれたりして二人で笑ってるのとても可愛かった。

 

 復唱しろって言われて「カラビーナ朝と夜は基本眠い」とか言っちゃうとことか、糸川さん、実は面白ニキでいらっしゃる?

 

 花に譬えるなら椿

 

 

 フレドリッヒ・カール  正木郁さん

 ライナーの手紙での歌声の柔らかさに「!?!!?」となった。

 ライナーの死からこれまで、砂を噛むような気持ちで生きてきたのではないかと思うととても辛い。

 

 地下室でラジオを隠すために抱き合うアベルとジャスパーを見た時、『フレドリッヒはツッコミを放棄した!』だと思ったのだが、ライナーとの関係を知った後だと二人がそういう関係だと思って動揺しているようにも見える。

 

 フレドリッヒのフェンシングの剣にはレイピア剣の絵が描いてある。これ、二人で剣にそれぞれ描いたんだろうか……完全な妄想だけど、フレドリッヒが現在使っているのがライナーの剣だったとしたらしんどさが増す。

 総統の前での試合が始まる前、配信ではマグナスとクレアの会話シーンが映っているから見えないんだけど、この時のフレドリッヒは置いてある自分の剣の前に1人静かに佇んでいて、まるでレイピア剣の絵に、ライナーに祈っているように見える。背中しか見えないから表情は判らなかったけど、何を思っていたのか。しんどい。

 

 フレドリッヒのフェンシングは「完璧」だけど「枠から抜け出そうとしない傾向が」って、変わった言い回しだなと思ったのだけど、ライナーの手紙とフレドリッヒの告白で「ああ……」と悲しみの納得をする。

 

 ライナーの手紙は、フレドリッヒへ婉曲に「僕のことをずっと忘れないで」と伝えていると個人的には思っている。直接的にそう言うとフレドリッヒへの負担・呪縛になってしまうと思ってライナーは遠回しに伝える事にしたのではないかと。

「絶対に生き延びて。そして時が流れたら僕の事を聞かせて」は、「長く生きて、誰かに僕の事を話して聞かせて」で、それはつまり、それまでずっと僕の事を覚えていて、忘れないで。ということなのではないか。ライナーは愛する人の死と、その人が自分を忘れることを恐れた。

 しかしよくよく考えるとライナー行動力おばけ過ぎる。

・地下室の鍵を(盗むと騒ぎになるだろうから恐らく)複製

・禁止されている放送(2年前もそうだったのかは不明だが)の入るラジオを所持

・団長の署名入りなどの数々の機密文書を入手・学内で保管

・どうやって知り合ったのかイギリスの記者と連絡を取り合う

 齢15歳でこれとは恐ろしい……特に書類なんて盗み出さなきゃ無理じゃないか?

 

 アベルにライナーを重ねたであろうフレドリッヒ、「誰にも危険は及ばないよ」とマグナスら3人の事を託されて、「誰にも」にはアベルは入っていないと解っていながらもそのように行動するしかなかったの辛すぎでは?

 フレドリッヒは総じて辛い。

 

 カラビーナ肩に担いで立っている姿がとても決まっていて格好良い。

 

 花に譬えるならスノードロップ、ライナーは勿忘草

 

 

 ハーゲン・アクスマン  吉高志音さん

 足がとても長い。これが股下5kmあるってやつか……

 小さい頃病弱だったというハーゲン、入学試験の重量挙げで半分しか持ち上げられてないの納得。軍事マニアになったのは病弱が故に本が友達で軍人の父親への憧れからそういう関係の内容のものをよく読んでいたからとか?オタク気質なのはクレアの経歴説明で何となく察した。(オタクは全員、自分の好きなものの話は早口で饒舌になると思っているオタク。)

 

 試験前へのジャスパーへの対応とかフェンシング指導の時の「あれがフェンシング?」と鼻で笑うところとかプライド高い嫌なヤツって感じだけど、遺伝学の授業でマグナスとアベルが順番に頭の形を褒められた後、『次は僕の番かな?』って感じで照れながら自分の頭触ってるところとかを見ると可愛いヤツである。

 

 最初は学校の思想に馴染んでいるように見えるけど、実際は波風をたてないよう上の人間に逆らわないようにしているだけなんだよな。

 水晶の夜の一件からクレアへの尊敬や憧れの念が失せたのか「クレア」呼びになっているし、マグナスが個人レッスン受けるって話を聞いても「ふーん」って興味薄いの、盲目的じゃなくてちゃんとハーゲンの中で基準があるの良かった。怪我したり辛い目にあったけど、マグナス・アベル・ジャスパーと打ち解けることが出来たのは良かったね。

 

 地下室でマグナスに「助けてやろうとしてるんだ」と言われて、「ははっ、何で?完璧なアーリア人の頭の形をお持ちの方が助けて下さったからありがたがれって!?英雄ごっこは楽しいか!?」って怒るけど、自分が頭の形褒められなかったことそんなに気にしてたんだ。可愛いな。マグナスのあの言い方に怒るのは当然だと思う。

 

 フェンシングを始めた歌で、ジャスパーが歌っている時「何言ってるのか全然理解出来ない」って表情をしてるのが、どんな家庭か想像出来てしまって辛い。そもそも父親にとって息子が病弱だという点からマイナスで、家庭教師をつけたのはせめてもの優しさなのか、自分の子供に教育をまともに受けさせなければというプライドか。(恐らく後者)

 3人と打ち解けてからのジャスパーとの仲良しぶりが可愛くて可愛くて可愛い。ズッ友であれ。

 

 地下室でビラ刷ってるシーンの、ビラで目隠しハーゲンのアドリブは日に日にパワーアップしていてオモロだった。ジャスパーの名前を呼ぶハーゲンの楽しそうな声音といったら。毎公演楽しみだった。楽日にはついにアベルまで巻き込まれていて、マチネのアベルはハーゲンの胸倉掴んで凄んで「黙れ」だったのでヒェッとなってしまった。怖いよアベルさん。

 

 さて、ハーゲン・カラビーナアハトウントノインツィヒクルツ・アクスマンくん。

 カラビーナ持って登場した後の行動が日に日にパワーアップ(エスカレートとも言う)していくので観劇の度に楽しみだった。

 配信だと身体を横向きに倒して下から隣のマグナスを睨み上げて「授業中寝てたのか!!」と憤慨する直角ハーゲンが見切れで一瞬しか映ってないの残念すぎる。あの面白ハーゲンが見られないだなんて。

 カラビーナはとんでもなく物騒な歌詞だけど、それを軽妙に歌い上げる吉高さんのおかげで曲のバランスが取れているなぁと。軽妙に歌うことで実際には経験したことがないんだなとも判る。足を怪我した直後の「脳みそ~」の曲調と歌い方で、身体を駆け抜ける戦慄の種類が真逆になったんだと解るのが上手い。

 

 花に譬えるなら月下美人

 

 

 ジャスパー・ミュラー 浦川翔平さん(THE RAMPAGE) 

 あまりにも可愛い。癒し。パンとバターに限らず色々な美味しいものをお腹いっぱい食べて……

 

 マグナスとハーゲンの会話の傍らで初対面のアベルと挨拶を交わしてるけど、すぐさま仲良くなってるっぽいのコミュ力高すぎない?

 

 クレアの初めてフェンシングの指導の時、初めて受ける正式なフェンシングの指導だからか、感心と尊敬・感嘆の混じったキラキラした目でずっと見てるの本当に素直で正直な少年で可愛い。台詞は無いけど目が雄弁に語るとはこういう事か。本当にずっとキラキラおめめだったので、目に星でも入ってるんじゃないかと思った。

 

 配信では「8時朝食好きなだけ頬張るパンとバター」のジャスパーが映ってなかったの残念過ぎた……片手ずつパクパクと食べるジェスチャーしてお腹をポンと叩く一連の動きは全部映してて欲しかった……あんなにも可愛いのに……

 

 遺伝学の授業であの雰囲気の中クレアに反論することが出来る強い子。暴力には怯える仕草を見せるから、それを避けるために黙っていることも出来ただろうに。

 暴力沙汰の時、柱にすがったり怯える様子から、愛のある、暴力とは無縁の家庭に育ったのが垣間見えるし、フェンシングを近所のおじいさんに習ったというのも下町育ちと周囲の人との仲の良さが窺える。近所の人達に本当の孫・子どものように可愛がられてたでしょ絶対。

 

 地下室でのアベルとの一連のシーンはこの作品において唯一の癒しと言っても過言ではない。「キング・オリヴァー!」の後二人で少し踊ってぎゅっとくっついて笑っているシーンの可愛さといったらない。さっきから可愛いしか言ってない。

 

 能天気キャラかと思いきや、実はきちんと自分の意見を持ち、「きょうだいも多いのに僕までお荷物になれないじゃないか」と家族の事を考えて身の振りかたを考えているしっかり者なところも良い。

 

 ラジオをアベルと身体で挟んで隠すシーンはフィーダシュタント至上一番可愛いシーン(曇りなきまなこ)。二人で小声で「あったか~い」「落ち着く」「ずっとこうしてたもんね」って話してる声音も可愛い。「やっとパンとバターが食べれる~」って言ってた回もあった。沢山食べて。というか監禁時って食事抜きなの?死ぬだろ。

 

 傷ついている人に真っ先に駆け寄り、他人の事に本気で怒るジャスパーにハーゲンは救われてたんだろうな。ハーゲンが怪我した時、身長差なんか全然考えず肩を貸してるところがまた愛しい。

 

 上でも散々言ったけど、アベルに「君の所為じゃなくて、僕も僕の考えを言ったまでだ。自分だけカッコつけるなよ!」「君はよく自分だけカッコつけるよな」と言えるのは本当に感心する。対人での聡さと、それを口に出すことが出来る素直さ。「カッコつける」という言葉のチョイスも言う時の口調も、深刻になりすぎてなくて良い。

 

 カテコでは、長崎出身ということもあり戦争の事を後の世に伝えていかなきゃならないと真剣にお話しされていた。

 花に譬えるなら大輪のヒマワリ

 

 

 浦川翔平さん、我が推しなのですが、演じるジャスパーの公式の説明文に「どんな状況でもユーモアセンスを忘れない性格」とあったので、本人の元々のキャラもあり、3枚目担当のおふざけキャラだったらどうしようと思っていたが全くそんなことはなかったので嬉しかった。

 本業はパフォーマーでミュージカルは初挑戦にも関わらず歌と演技の質の高さに本当に驚いた。初めて歌声を聴いた時鳥肌が立った。元々歌が上手いのはもちろん知っていたし、よく通る声なので向いてそうだとは思っていたけど、これほどのものをお出しされるとは思っていなくて感服した。大千秋楽の挨拶での大粒の涙で、今までの苦労と努力が偲ばれてもらい泣きした。

 翔平さんが舞台REAL RPG STAGE『ETERNAL2』-荒野に燃ゆる正義-で演じているマティアスも色んな意味で凄いので万人に観て欲しいのだけど円盤が無い。何故だ。(YouTubeに短いけどゲネプロの映像はあります。)

 

 

 ラインハルト・クレア 藤田玲さん

 間近で見た時の迫力・威圧感が半端ない上に美。自分だったら無条件にただ従いますって言ってしまう。クレアと藤田さんのギャップに風邪をひく。

 

 尋問の後、アベルがナイフを持ってるのはクレアが忍ばせたんだろう?そうだろう?暴力を否定するアベルがナイフなんて持ってる訳が無い。言葉より行動で示せと言って、あの部屋にナイフの存在があるのはどう考えても「お前の死で以って証明しろ」ということ。

 しかもアベルの死後、マグナスがハーゲンジャスパーと揉める場面で「あいつがあんなんになるまで」と言っているということは、アベルの亡骸は、結構酷い状態だったのではないだろうか。クレアの尋問の前に暴行を受けたのか、首を切った跡を誤魔化すために死体を損壊したのか、どちらにせよ人は己の正義のために残酷になれる。クレアてめぇこの野郎。

 

 クレア団長は潔癖症。尋問時アベルに触れる度に自分の服でねっちょりと手を拭うクレアが話題になった。彼はそれ以前のフェンシングの指導時、アベルが拾って渡した本も裏表しっかりと袖で拭いている。「まさかこの時からアベルの事を……!?」と思わなくもないが、この時点での彼らは本にすら辿り着いていないので、クレアはただの潔癖症だと思う。体育館であっても床は床、汚れている事は確か、そんなところに自分が置いたとはいえ、拭きたくなるのが潔癖症。クレアの気持ちは全く解らんが、潔癖症の気持ちは解る。

 

 執務室でマグナスと話してる時、何が本音で何が嘘なのかもう分からないんだよ……

 

 どうでもいいけどクレア団長とヒルダ先生が混ざって「クレア先生」とよく間違える。

 

 花に譬えるならユリ(白か黒)

 

 

 終わりに。

 個人的に全員のその後は死だろうと思っているのでその辺を想像すると暗澹たる気持ちになってしまう。特にマグナスは実行犯なので一族郎党までも収容所送りにされてしまうのではなかろうか。

 クレアも、傷の深さはどの程度なのか分からないけど、事件の責任を取らされるのは確実、死にはしないかもしれないが、立場を失いはするだろう。別にいいけど。

 最後に4人が「フィーダシュタント!!」とビラを撒く時、悲愴な雰囲気が無くて笑顔すら見えるのがせめてもの救い。

 

 

 我々にもミュージカル「フィーダシュタント」の円盤発売という救いがありますように。